本当のリハビリとは何か。
私は今、リハビリのために入院している。
ただ、リハビリ入院は今回が初めてではない。これまでにも入院し、療法士さんと歩く練習をして、退院後の生活に戻った経験がある。
そのたびに、病院の中では少しずつ歩けるようになった。
それでも退院して外へ出ると、病院で歩いていたときとはまったく違う難しさが待っていた。
だから今、あらためて思う。
本当のリハビリとは、何なのだろう。
今の私の答えは、
誰もそばにいない場面でも、自分を守りながら動ける方法を身につけること。
病院での練習は、そのための大切な準備だ。
でも、そこで歩けるようになることだけが、リハビリのゴールではない。
リハビリ室で、私は歩く練習をしている。
平行棒から手を離し、理学療法士さんに見守られながら廊下を歩く。
少し距離が伸びる。
前より足が出る。
「今日はよく歩けましたね」
そう言われると、やはりうれしい。
以前にも経験しているはずなのに、歩ける距離が伸びれば回復を感じるし、自信にもなる。
ただ、私はもう知っている。
ここで歩けることと、病院の外で一人で歩けることは、同じではない。
リハビリ室は、とても守られた場所だ。
床は平らで、濡れていない。急な坂や予想外の段差も少ない。つかまれる手すりもある。
そして何より、理学療法士さんがすぐそばにいる。
バランスを崩せば、すっと手が伸びてくる。
危ない動きをすれば、すぐに止めてもらえる。
だから私は、思い切って次の一歩を出せる。
つまり、リハビリ室での「歩けた」という感覚は、安心とワンセットなのだと思う。
自分の足で歩いていることに間違いはない。
それでも、見守ってくれる人がいる前提で歩いている。
退院後の生活では、その前提がなくなる。
私には、道路で転んだ経験がある。
一人で歩いていた帰り道だった。
隣に、手を差し出してくれる人はいない。
「もし転んだら、誰も受け止めてくれない」
そう思うだけで、体が固くなる。
足が思うように出なくなり、余計にバランスを崩す。
そして実際に、私は転んだ。
痛かった。
恥ずかしかった。
でも、それ以上に強く残った感覚がある。
地面に手をついたまま、
ああ、ここには誰もいないんだな、
と思った。
「大丈夫ですか」と、すぐに声をかけてくれる理学療法士さんはいない。
どこにつかまるか。
どうやって体勢を立て直すか。
助けを呼ぶのか。
自分で判断しなければならない。
病院では歩けていた。
けれど外では、同じようには歩けなかった。
一度リハビリを経験したからといって、この違いにうまく対応できるようになるわけでもなかった。
入院を重ねるたびに歩く練習はする。
それでも退院すれば、また守られていない日常の中で、自分なりの動き方を探すことになる。
病院の外には、リハビリ室にはないものがたくさんある。
車や自転車が通る。
道が傾いている。
小さな段差がある。
雨で地面が滑る。
後ろから人が迫ってくる。
途中で疲れても、帰らなければならない。
病院で歩けた距離でも、外では同じように歩けるとは限らない。
体の状態だけではなく、周囲の状況や不安によっても、動き方は変わるからだ。
だから私は、本当のリハビリを自分なりに定義し直したい。
本当のリハビリとは、
不確定なことが起きる日常の中で、自分を守りながら行動する方法を身につけること。
一人ですべてをこなすことではない。
困ったときは、人に頼っていい。
助けを借りられるときは、借りた方がいい。
それでも、いつでも誰かがそばにいるとは限らない。
だから、誰もいない場面も想定しておく。
転ばないために、どの道を選ぶか。
段差や坂道はどこにあるか。
雨の日はどうするか。
途中で座れる場所はあるか。
疲れてくる帰り道を、どう短くするか。
無理だと感じたら、どこで引き返すか。
万が一転んでしまったら、どう助けを呼ぶか。
こうしたことは、平らで安全なリハビリ室の中だけでは、なかなか身につかない。
守られた環境での練習は、外に出るための大切な土台になる。
でも、守られていない世界での動き方は、実際の暮らしの中で少しずつ覚えていくしかない。
私は今、また病院にいる。
これまでにも退院し、外での生活に戻り、うまくいかなかったことを経験してきた。
だから今回は、歩ける距離だけを見てはいない。
道を調べる。
段差や階段を確認する。
途中で休める場所を探す。
無理のない予定を立てる。
帰りの体力まで考えておく。
タクシーを使う基準を決めておく。
助けを求める方法を考えておく。
歩く練習だけではなく、自分を守るための選択肢を増やすことも、リハビリの一部なのだと思う。
これは、初めての退院を前にした不安ではない。
何度か退院後の現実を経験してきたからこそ感じている、不安だ。
病院の中で歩けたからといって、外でも大丈夫とは限らない。
そのことを、私はもう知っている。
理学療法士さんがそばにいる今は、そのための準備期間だ。
そして退院すれば、また本当のリハビリが始まる。
立ち止まってもいい。
怖くなったら、引き返してもいい。
タクシーを使ってもいい。
誰かに助けを求めてもいい。
大切なのは、一人で何でもできるようになることではない。
誰もそばにいない場面でも、自分を守れる方法を少しずつ増やしていくことだ。
リハビリ室で歩けることは、ゴールではない。
その力を、守られていない日常の中でどう使うか。
私は退院するたびに、その続きを練習している。


